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理事長通信

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会長先生は、ただいま黄泉の国へ出張中です。先週5月19日金曜日の夕方5時発の便でお発ちになりました。2017年5月24日

 会長先生は、ただいま黄泉の国へ出張中です。先週5月19日金曜日の夕方5時発の便でお発ちになりました。自宅にて夕食中に、食事を半分終え、そのまま健やかに穏やかに、まるで体と魂の消灯時間がその時間であったかのように、すうっと逝かれました。孫娘が学校から帰ってくるのを待っていたようでした。家族や駆けつけた主治医の先生など皆で見送りました。それはそれは静かな時でした。
 会長先生の留守中は私が慶応会と会員さんをお守りしますよ。どうぞご心配なく。
 もう、式などすべてつつがなく執り行いましたが、かつての教え子の方やご父母の方で、もしもお見送りにお越しいただけるようであれば、慶応会1階事務室の机に写真を並べてあります。私がおります時は、お話のお相手をさせていただきます。では、4月5日の理事長通信を再掲載させていただきます。

 人生とは、脳の中で起きた一夜の夢ではないだろうか。会長先生を自室に見舞いながらそんなふうに思いました。
 余生の時間の中で、その人の人生を彩ったものはどんどんはぎ取られ、余分なものはすべて消え失せ、その人の核だけが残る、というのも本当のことのように感じられます。

 会長先生は、日常的には意識がしっかりとしておられ、会話の中心は「人の教育」のことになります。
 「子どもたちを育てる教育というものは、何よりも大事なものだから、責任は重いものだよ。第一、子どもに教える前に、まず親御さんたちを教えていかなければならないんだからね、そこが一番手のかかるところだねぇ」
 「とにかくね、できない子どもをどうやって導くか、ここに教師の腕がかかっているからね。まず、子どもたちの心が理解できるかどうか、そこがわからなければ教えるなんてことはできないわけだからね。指導のテクニックだけ上手なんてことでは務まらない。そこまでできる先生をどうやって育てるか。まあ、毎日毎日の積み重ねだねぇ」

 今朝、会長先生の好物を届けに行くと、玄関まで届く歌声が聞こえました。会長先生は若いころ、遠くまで冴え渡る口笛を吹く人でした。メロディアスで空気を通すような音色には陶然とするほどで、夕暮れ時の散歩中に、ふいに始まる父の口笛が私は大好きでした。でもそのころの私は、父の吹く口笛などいつでも聴けるものという感覚しかもちませんでしたので、形で残しておかなかったことがすごく残念です。録音してとっておこうなどと思わなかったのですね。(そういうことって、実は多くないですか?)
 会長先生の歌声がやむと、今度は会話が始まりました。様子をうかがうと、会長先生は現役の先生で、小学校低学年の生徒たちを連れて、野山にピクニックに来ている情景のようです。それはそれは楽しそうな様子です。
 がらんとした映画館で、終演間近のスクリーンをただ眺めているような気分に私はなりました。
 私は確かに、この父のもとに生まれ、教えてもらい、育ててもらい、ようやくでこぼこしながらも大人の一員になれました。
 父はまたその父に、同じように育てられ、今日を迎えています。語りつくせない物語があったはずです。丁寧に出来事をたどったなら、それこそ90年近い時間をかけなければたどれないほどの事が起きてきたはずです。でも通り過ぎた今となっては、一編の詩を読んだ後に残った印象ほどのものかもしれません。

 人生とは、脳の中で起きた一夜の夢ではないだろうか。
 だったらなおさらのこと、実人生では欠点の多い自分を受け入れ、さわやかな一編の詩を紡ぎ、その詩に添って私は生きていこうと思います。

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