今週ウケた、小ネタをおひとつ。2017年4月26日
今週ウケた、小ネタをおひとつ。
うちの10歳の娘が、宿題を片づけるため机に向かっている時でした。時間も22:30を過ぎています。それほど遅いわけではなくても、まだ他にもやり残していることがありそうです。なかなかはかどらない様子を見かねて、母親が小さな木製の折りたたみイスをもって、娘の後ろに座りました。
娘からすれば、せっちん詰めのようです。なにしろ前に勉強机、後ろに母親ですから。
母親は算数の解法を指南しています。彼女の美徳は(探せばやっと見つけられる?)、声を荒らげることなく、辛抱強く教えることができることなのですが、それでも何度も同じことを指摘されるうちに、娘の方が態度を硬化させてきます。娘の口から洩れる声が、すねたノラ犬のようにひっくり返る頃には、もうそろそろ限界が近づいています。
「ねえ」、と娘の名を呼び、彼女は横目で私を見ました。
「きみはね、あと数年もしないうちにママのことを、『ああ、この人が私のママでよかったなぁ』って思うようになるよ。パパがもう20年以上も、『この人が妻になってくれてよかったなぁ』っていつも感謝しているのと同じようにね」
これは結構ウケましたね。最近の傑作です。もちろんギャグなんですけれど。
別の日の事です。「ねえ、パパ」
なんだい? と、ソファで極上の時を過ごしていた私が顔を上げると、不機嫌な様子の娘が私を見下ろしています。愛情の深さと威厳の重さを示すことを旨とする父親ができることは、ただちに今読んでいる、いつでも読めるようなお気楽な趣味の本を横へ置き、娘の気持ちに向かい合うことです。はい、わかっています。
「うん、どうした? 」
「私ね、今日、学校でいやなことがあったの。話をすると長くなるし、結局は解決のつかないことだから、それは自分で解決するからいいの。だから、おもしろい話で私を笑わせてちょうだい」
なるほど、事の次第はわかった。
私はふだん娘にあまり誇示することのない知性をありったけ掻き集め、拡散思考を前頭葉に集中させて話を作りました。
「パパがこの間、通りすがりに見たことだけど、そんな話でいいかな?」
「どうぞ」
「どこかの商店街を歩いていたら、なんだか通りまで漂ってくる、いい匂いがするんだよ。見ると、もつなべ屋の看板が出てるんだ。中をのぞくと、そこの大将の大きな背中が見えてね、それはもう全身で力を込めて、大きな鍋をかき回している。なんだろう? そこでパパは声をかけてみたんだ。『大将、なんだかいい匂いがするけれど、いったい何ができるんだい?』ってね。そうしたら大将がふり向いて言うんだ。『うまーい、大根のうま煮を作ってるんでさぁ』ってね。ほう、そりゃあいいな、と思って大将の背中越しに鍋をのぞいたら、大根をたくさん抱えたあいつが、鍋の真ん中で、切なそうな顔をしてこっちを見てるじゃないか」
「あいつってだれ? 」
「ウマ」
「……」
「まあ、大根のウマ煮だ」私は湯加減が熱くなってきたせいで、切なさが増してきたウマの顔を演技して見せました。
「わかった、もういいからあっち行って」
「そうは言っても、確かにきみはクスッとしたよ」
「はいはい」
私はあきらめて、急きょ英作文をしました。
「I skated on purpose.どう? on purposeってわざとって意味ね。和訳して」
「なにそれ、私はわざとスケートをした?」
「いや、私はわざとスベった」
私はスベっただけでなく、娘からの信頼も失いそうです。
「もう本当にいいからあっち行って」
と、ウマより切なくなったのはこの私なのですが、私だってそのつどいろいろとさまざまにやっております。
年頃の子や、反抗期の子や、扱いにくい時期のわが子とのつき合いに困惑している世のお父さんは多いと思います。お父さん、私はいつもあなたに寄り添っていますよ。一緒に頑張りましょう。この夏に出る、私の三作目の本を期待してください。きっとお役に立ちます。